どうも!マスゴミテレビ局員Tです!
今日は「5Gでテレビは終わるのか?【テレビマンの考察】」をお届けします。
巷では「ネット VS テレビ」という構図で騒がれており、「テレビはオワコン」という声もよく聞きます。
そして「5Gの到来によってテレビの終わりが現実になる」という論もささやかれています。
しかし、本当にそうでしょうか?テレビは終わってしまうのでしょうか?
結論から言えば、Tは「5Gは敵ではなく、テレビ業界を進化させるもの」としてとらえています。
そしてそのカギは「“TVer”が握っている」と考えています。
この記事では現役ディレクターの目線で、その論拠・考察を解説していきます。
そして5Gの基礎知識についても解説しておりますので、「最近よく耳にするけど5Gって何?」という方も、ぜひお付き合いください。
目次
■「5G」とは?
「5G」と「テレビ」について論じる前に、まず5Gについてご説明しなければなりません。
国内の通信大手3社でも2020年3月から提供が始まった「5G」。
今はまだ限定的なサービスですが、私たちの生活を大きく変えると注目されています。
改めて、5Gをご説明すると「5th Generation」つまり「第5世代移動通信システム」のことです。
簡単に「どのような段階を経て5Gに到達したのか」その過程をご説明しましょう。
■第5世代への過程
- 1G:音声(携帯電話の登場/アナログ方式)
- 2G:パケット通信・メール(iモード・EZwebの登場/デジタル方式)
- 3G:ブラウザ・動画(FOMA・iPhoneの登場/世界共通のデジタル方式)
- 4G:高精細動画(動画配信サービス・モバイルゲームの登場/LTE)
正確にはLTEは3.9世代で、4世代はLTE-Advancedなんですが、今回は分かりやすさ重視で区分けしております。
現在ほとんどの方が享受しているのは「4G」のサービスですね。
これらの通信システムは約10年ごとに革新されてきています。
では「5G」では何が実現するのでしょうか?
■5Gは何を実現するか?
通信に関する国際標準化団体である「国際電気通信連合」の無線通信部門である「ITU-R」は、5Gの3つの利用シナリオを示しました。
- 高速大容量通信
- 超信頼・低遅延通信
- 多数同時接続
「①高速大容量通信」によって「通信が速くなる」ことは何となく理解している方も多いのではないでしょうか。
具体的には4G時代の10倍以上、通信速度が速くなるとされています。
さらにそれだけでなく、「②超信頼・低遅延通信」「③多数同時接続」という非連続な進化も起こる訳です。
つまり、この5Gが普及すれば「超高速化による4Kや8Kといった高解像度の動画配信」や「超多数同時接続によるIoTの普及」「超低遅延による自動運転精度の向上・遠隔治療」などが可能になると言われています。
ちなみに5Gについては、「5Gビジネス」という本が非常に分かりやすいです。
Tもいくつか5Gの本を読みましたが、この本は根本から説明してくれて一番理解しやすいので、勉強したい方にはオススメです。
■「ネット」VS「テレビ」
先ほど説明した「5G」が特にテレビを脅かす面は、「超高速化による高解像度の動画配信」が可能になることです。
これにより、ネットに対するテレビの優位性が無くなると考えられています。
■5Gで崩壊するテレビの優位性
現在の動画配信サービスは、アクセスが集中するとアプリが使えなくなったり、動画の画質を落として対応したりしていますよね。
新型コロナの影響で在宅率が高まり、サービスの利用者が急激に増えると、NETFLIXやYouTubeが画質を落として対応したことは記憶に新しいですよね。
その点テレビは大多数の人間が同時に視聴しても画質が落ちたり遅延が発生する事はありません。
テレビはネットに対して、この面では圧倒的なアドバンテージがありました。
この優位性によって、生放送のイベントや大型スポーツ中継は、ほとんどテレビが独占してきたのです。
しかし、5Gが普及すればこの「テレビの優位」は崩壊します。
なぜなら、ネット環境でも遅延なく、高解像度の映像を、大量のユーザーに同時に送れるようになる可能性があるからです。
さらに、これが実現すればユーザービリティでの差も拡大するでしょう。
例えば、テレビでライブやスポーツを観戦する場合、テレビ局側で編集(スイッチ)された「1つの映像」しか観られません。
しかし、ネットで見る場合は、好きなカメラを選べるようになるので、ユーザーの選択肢が増えます。
「好きなアイドルや選手だけを追い続ける映像を選ぶ」逆に「余計な寄りの映像はいらないから、広い映像だけ観ていたい」、もちろん「テレビのような適切にスイッチされた映像を観たい」といったあらゆるユーザーの要望全てに対応できるようになると思います。
つまりユーザービリティも圧倒的に、テレビよりネットに軍配があがる訳です。
ネットの動画配信サービスは観る媒体を選ばないので、テレビはもちろん、タブレット・スマホ・PCどれでも視聴することができます。
今後、テレビでスポーツ中継をする方が、むしろ「ユーザーにとって損」という事態が起きかねない状況です。
「今日のサッカー中継テレビ?マジかよ、家帰ってテレビで観なきゃいけないじゃんうぜー」
こんな風に言われてしまう未来、テレビマンとしては悲しすぎます。
■ネット広告費に敗れたテレビ
次にスポンサー(広告主)の立場から考えてみましょう。
大手企業で宣伝を担当する知り合いからよく言われるのは「テレビはブラックボックスが多すぎる」ということ。
ネットに広告を出す場合は、広告を見た人の属性(性別・年齢・趣味嗜好など)や広告を見た回数、広告をクリックした回数、実際に購入した額、どの国のどの地域で、どの時間帯に広告を見たのか・・・
ありとあらゆるデータを集め、広告効果を検証することができます。
一方のテレビでは、様々なデータ収集の動きが進んでいるものの、今なお「視聴率」という不明瞭な指標でやり取りされており、広告効果を検証しにくいメディアとされています。
一般企業では昔よりデータが重要になっており、このブラックボックスを何とかしないと、「今後はテレビCMを打てない」可能性もあるそうです。
確かにお金を出す側からすれば、「たくさんの人に観てもらえるらしい」よりも「この金額で、これだけの人に広告を見てもらい、実際にこれだけの購入がありました。」「ターゲットの属性に当てはまる〇〇人に広告を打ちます」と明確にデータで示してくれる方にお金を出しますよね。
実際、2020年3月に電通が発表した「日本の広告費」によると、インターネット広告費は6年連続の2桁成長率で1兆9,984億円(前年比113.6%)、一方のテレビ広告費は1兆8,612億円(前年比97.3%)。
史上初めて、インターネット広告費がテレビの広告費を上回ったのです。
当然、これは5Gが普及する前(2019年)の数字です。
もし5Gが普及し、テレビがこのままの形式を続けていれば、衰退は目に見えています。
■テレビとネットの融合
では、テレビとネットの融合について考えてみましょう。
今盛んに議論されているのは「テレビ局のネット同時配信」です。
NHKは2020年3月からネット同時配信を開始しています。
具体的には「NHKプラス」というサービスで「①放送中の番組を視聴できる“常時同時配信”」と「②放送後の番組を視聴できる“見逃し番組配信”」です。
このサービスは現在受信料を納めている世帯で、利用申込をすれば無料で利用できます。
さらにNHKは「NHKオンデマンド」という有料の動画配信サービスも行っています。
こちらはNHKが過去に放送した番組や映像資産をいつでも好きな時間に視聴することができるサービス。
「Amazonプライム・ビデオ」でも配信をスタートし、話題になりましたよね。
このように「テレビとネットの融合」という面ではNHKが民放に先駆けた動きを見せています。
これに対して「採算性がない」として実施に二の足を踏んでいた民放各局。
しかし、2020年の秋ごろからネット同時配信を行う準備を進めていると報じられました。
ただ、すべてのテレビ番組での実施ではなく、ゴールデンタイム(19時〜22時)やプライムタイム(19時〜23時)の限定的なサービスになるようですが・・・
■テレビの未来=「TVer」
おそらく、今後カギとなるのは、「TVer」を活用した民放のネット同時配信の解禁。
つまり民放5局の地上波放送を「①TVerで常時同時配信」そして「②TVerで放送後1週間“見逃し番組配信”」を実現するということです。
「AbemaTV」のように「TVer」にそれぞれの放送局のチャンネルがあり、リアルタイムで観ることもできるし、見逃し視聴もできる。
こうなれば、テレビだけでなくスマホやタブレットでも視聴でき、非常に便利ではないでしょうか?
実際、2020年1月末には、TVerで放送の同時配信サービスに関する技術実証実験が一部の番組で行われました。
また、スポーツイベントなどでもネット同時配信の実験は行われています。
先ほど説明した秋からの同時配信もTVerをプラットホームにすると推測されます。
さらに、こうしたネット配信でのCMは、地上波とは別の「ターゲティング広告」になることもポイントです。
つまり「地上波のCMと配信のCMは、別のCMが流れる」ことになるのです。
ちなみに「ターゲティング広告」とはネットで導入されているもので、ユーザーやコンテンツの情報を分析して、ユーザーにとって適切と思われる広告を配信する仕組みです。
つまり、先ほど説明したテレビCMの弱点「番組の視聴者層など、ざっくりとしたターゲティングしかできない」をテレビが克服する可能性が出てきたのです。
■5局でやるから意味がある
さらにTが提案したいのは、他の動画配信サービスに対抗するため、「TVerプレミアム」という有料サービスを設定すること。
各局が過去のドラマやアニメ、映画、バラエティ番組を配信し合い、課金したユーザーはそれらが見放題になるプランです。
基本的には「NHKオンデマンド」と同じような仕組みですね。
しかし、配信分野ではフジテレビの「FOD」や日本テレビの「Hulu」など、独自の動きがすでにありますよね。
Tは何故ここまで「5局が足並みをそろえるべき」と主張するのでしょうか。
理由は簡単。各局ごとの動画配信サービスでは「Amazonプライム・ビデオ」や「NETFLIX」に勝てないからです。
Tは映像コンテンツ業界で生きているので、「Amazonプライム・ビデオ」「NETFLIX」「U-NEXT」「AbemaTV」の4つのサービスを契約しています。
しかし、一般の視聴者がこんなにたくさん契約するでしょうか?
せいぜい1つか2つのサービスですよね。
たとえ無料だとしても、いくつも会員登録するのは正直 面倒くさいです。
そんな中、各局が動画配信の有料サービスを作っても、既存の動画配信サービスには勝てるでしょうか。
なかなか厳しいとTは思います。
しかし、TVerに課金すれば民放5局の過去コンテンツを観られるとなれば、多くの人が加入してくれるはずです。
5局はTVerというプラットホームの中で、自局のコンテンツがより多く視聴されることを競い、配信視聴数に伴って売り上げを分配する形式をとった方が、ユーザーを食い合わずに済むと思います。
あくまでこの記事で考察したいのは「テレビの未来」です。
テレビ業界が「オワコン」という空気が漂う中、テレビが今後生き残るためには、業界全体で動画配信サービスと戦う覚悟が必要だと強く感じます。
■「独自コンテンツ」×「局の垣根を超える」
TVerをプラットホームにした「地上波とネットの同時配信の実現」で、ようやくテレビは動画配信サービスと戦う土俵に立ちます。
では、いかにして戦っていけばいいのでしょうか?
現在、すでに近い現象が起きていますが、動画配信サービスはどこも同じような料金で、同じようなコンテンツを配信していくことになります。
実際、「Amazonプライム・ビデオ」で観られる映画の多くは、「NETFLIX」でも観られますよね。
そして料金がより安いサービスに人が群がるので、ある程度の水準でどこも同じようなプランに落ち着くのではないでしょうか。
そうなるとどこで差をつければいいのか。
Tは「独占配信・独自コンテンツ」だと思います。
つまり「全裸監督が観たいからNETFLIXに加入する」「バチェラーが観たいからAmazonプライム・ビデオに加入する」という、強い独自コンテンツを持っている配信サービスが勝利すると思うんです。
現時点では、テレビの「コンテンツ制作力」は圧倒的です。
毎日の放送枠を埋めるために、日々新しいコンテンツを量産し続ける地獄の環境が他にあるでしょうか?
このコンテンツ制作力を維持できれば、十分に配信事業でも生き残っていけると思います。
さらに、TVerを使えば、局の垣根を超えたコンテンツ作りも可能となります。
例えば、TVerの配信限定で「フジテレビとTBSがタッグを組んだスペシャルドラマ」を、1局ではとても実現しない大きな予算をかけて制作することも可能となります。
ここまで大げさじゃなくても、「局を超えたバラエティ番組同士のコラボ企画」も楽しそうです。
どうですか?ちょっとワクワクしてきませんか?
これまでは、コンテンツをかける場がタイムテーブルに縛られた地上波しかなかったため、こうした局を横断した企画は困難でした。
しかし、TVerをプラットホームにすれば、局を横断する企画もやりやすくなります。
配信の場合、裏番組とか気にしなくていいですからね。
このように、5Gの到来は、テレビ業界の新たな可能性を開きます。
テレビ業界全体が真剣に取り組めば、5Gは敵ではなく、地上波の垣根を取っ払い「進化をうながす存在」になり得るでしょう。
■ローカル局の未来
こうなると困るのが「ローカル局」です。
現在、テレビ業界は各エリアごとに区分けされています。
しかし、ネット同時配信になれば、電波の垣根を飛び越えてキー局の放送が地方でも視聴できるようになるため、地方局の地上波放送とバッティングしてしまうからです。
地方にお住まいの方はお分かりと思いますが、地方ではチャンネルが5局無い地域も多く存在します。
例えば、2チャンネルしか観られないエリアで、民放5局すべて観られるサービス(TVer)がネットで同時配信されたらどうでしょう?
今まで観れなかった番組が、TVerなら観れるようになるので、若者は飛びつくでしょう。
そうなるとローカル局を観るのは、「地域のニュース」や「気象情報」くらいになってしまうかもしれません。
地方によっては、それすら新聞かスマホで十分というケースが出てくるかもしれません。
実際、2020年の秋ごろから開始予定の同時配信がゴールデンやプライム帯に限定されるのも、こうしたローカル局への配慮と言われています。
もちろん、ローカル局を含めた「各系列の力」で日本中の取材・報道ができているのですから、キー局もローカル局を無視する訳にはいきません。
しかし、もし今後、テレビ業界が生き残れるかという瀬戸際に差し掛かった時、キー局にそこまで考える余力が残っているでしょうか?
コンテンツ力の乏しいローカル局にとっては厳しい時代になることは間違いありません。
近い将来、電波の優位性が薄れることは間違いないので、ローカル局は真剣に生き残る方法を模索するべきです。
そうしないと「各エリアの報道業務のみに縮小する」という未来も十分にありえると思います。
■まとめ
- 5Gの到来は、テレビが進化するチャンス。TVerのプラットホームとしての重要性が高まる。
- 配信時代に行き残るのは「独自コンテンツ」を持つメディア
- 電波の優位性は近い将来失われる。ローカル局は生き残り戦略が急務。
5Gの到来により、ここ数年でテレビをめぐる環境に大きな変革が起きるのは確実。
しかし、どんな時代が来たとしても、人々が「良質な映像コンテンツ」を求めるのには変わりありません。
だからこそテレビは「コンテンツ力を維持し、高めるべき」だと思いますし、その一翼を担える人間でありたいと、テレビマンであるTは強く思います。
以上、名もなきテレビマンの独り言でした。
ではでは
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